読んできかせる場合·Ogawa Mimei

読んできかせる場合

よんできかせるばあい

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginneressay· 1982· 青空文庫 ↗

お母さんたちが、何か心配なことでもあって、じっと考えていられるとします。いつもなら、快活にお話なさるものが、その時ばかりは、全く、言葉さえなく口を噤んで、そして、いつもにこ/\として、やさしい顔から、笑の影の絶えなかったものが、なんとなく打ち沈んで、瞳をひとゝころに落していられたとします。

たとえ、その様子に対して、何人もが、注意しなくとも、かならず、あなた達の小さな坊ちゃんや、お嬢さんは、眼敏く、お母さんの顔色を読むにちがいありません。そして傍に寄って来て、

お母さん。ねえ、どうしたの?お母さん」

こう言って、問うでありましょう。そうして、小さな心を満足するだけの返事をきかぬうちは、その言葉をくり返えすにちがいありません。

いったい、これ等の事実は、何を物語るものでしょうか。こうした場合に於ける、お母さん達の態度は、また、いろ/\であると思われます。たとえば、あるお母さんは、

「いま、ちょっと、お歯が痛んだものだからこうしていたのですよ」と、さりげなく言って子供に安心を与えるでありましょう。また、あるお母さんは、

「うるさいから、あちらへ行っておいでなさい」と、つっけんどんに、答えたでありましょう。そして、また、なかには子供が、しんけんで、きいているにかゝわらず、お母さんは、返事もせずだまっているにちがいない。

けれど、子供たちは、答えがあるまでは、おなじことを何遍もくりかえして、その傍を離れようとはしないでありましょう。しかも、最後に、罪もないのに、怖しい眼でにらまれ、もしくは、叱られるようなことがないとは限りません。

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