かしわばやしの夜·Miyazawa Kenji

かしわばやしの夜

かしわばやしのよる

宮沢 賢治(Miyazawa Kenji)

beginnerchildren· 1990· 青空文庫 ↗

清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云いながら、稗の根もとにせっせと土をかけていました。

そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺の幹などもなにか粉を噴いているようでした。

いきなり、向うの柏ばやしの方から、まるで調子はずれの途方もない変な声で、

「欝金しゃっぽのカンカラカンのカアン。」とどなるのがきこえました。

清作はびっくりして顔いろを変え、鍬をなげすてて、足音をたてないように、そっとそっちへ走って行きました。

ちょうどかしわばやしの前まで来たとき、清作はふいに、うしろからえり首をつかまれました。

びっくりして振りむいてみますと、赤いトルコ帽をかぶり、鼠いろのへんなだぶだぶの着ものを着て、靴をはいた無暗にせいの高い眼のするどい画かきが、ぷんぷん怒って立っていました。

「何というざまをしてあるくんだ。まるで這うようなあんばいだ。鼠のようだ。どうだ、弁解のことばがあるか。

清作はもちろん弁解のことばなどはありませんでしたし、面倒臭くなったら喧嘩してやろうとおもって、いきなり空を向いて咽喉いっぱい、

「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」とどなりました。するとそのせ高の画かきは、にわかに清作の首すじを放して、まるで咆えるような声で笑いだしました。その音は林にこんこんひびいたのです。

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