さるのこしかけ·Miyazawa Kenji

さるのこしかけ

さるのこしかけ

宮沢 賢治(Miyazawa Kenji)

beginnerchildren· 1990· 青空文庫 ↗

楢夫は夕方、裏の大きな栗の木の下に行きました。その幹の、丁度楢夫の目位高い所に、白いきのこが三つできていました。まん中のは大きく、両がわの二つはずっと小さく、そして少し低いのでした。

楢夫は、じっとそれを眺めて、ひとりごとを言いました。

「ははあ、これがさるのこしかけだ。けれどもこいつへ腰をかけるようなやつなら、すいぶん小さな猿だ。そして、まん中にかけるのがきっと小猿の大将で、両わきにかけるのは、ただの兵隊にちがいない。いくら小猿の大将が威張ったって、僕のにぎりこぶしの位もないのだ。どんな顔をしているか、一ぺん見てやりたいもんだ。

そしたら、きのこの上に、ひょっこり三疋の小猿があらわれて腰掛けました。

やっぱり、まん中のは、大将の軍服で、小さいながら勲章も六つばかり提げています。両わきの小猿は、あまり小さいので、肩章がよくわかりませんでした。

小猿の大将は、手帳のようなものを出して、足を重ねてぶらぶらさせながら、楢夫に云いました。

「おまえが楢夫か。何歳になる。

楢夫はばかばかしくなってしまいました。小さな小さな猿の癖に、軍服などを着て、手帳まで出して、人間をさも捕虜か何かのように扱うのです。楢夫が申しました。

もっと語を丁寧にしないと僕は返事なんかしないぞ。

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