とっこべとら子·Miyazawa Kenji

とっこべとら子

とっこべとらこ

宮沢 賢治(Miyazawa Kenji)

beginnerchildren· 1988· 青空文庫 ↗

おとら狐のはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。

「とっこべ」というのは名字でしょうか。「とら」というのは名前ですかね。そうすると、名字がさまざまで、名前がみんな「とら」という狐が、あちこちに住んでいたのでしょうか。

さて、むかし、とっこべとら子は大きな川の岸に住んでいて、夜、網打ちに行った人から魚を盗ったり、買物をして町から遅く帰る人から油揚げを取りかえしたり、実に始末におえないものだったそうです。

慾ふかのじいさんが、ある晩ひどく酔っぱらって、町から帰って来る途中、その川岸を通りますと、ピカピカした金らんの上下の立派なさむらいに会いました。じいさんは、ていねいにおじぎをして行き過ぎようとしましたら、さむらいがピタリととまって、ちょっとそらを見上げて、それからあごを引いて、六平を呼び留めました。秋の十五夜でした。

「あいや、しばらく待て。そちは何と申す」

私は六平と申します」

そちは金貸しを業と致しおるな」

御意の通りでございます。手元の金子は、すべて、只今ご用立致しております」

「いやいや、拙者が借りようと申すのではない。どうじゃ。金貸しは面白かろう」

「へい、御冗談、へいへい。御意の通りで」

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