あるまりの一生·Ogawa Mimei

あるまりの一生

あるまりのいっしょう

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

フットボールは、あまり坊ちゃんや、お嬢さんたちが、乱暴に取り扱いなさるので、弱りきっていました。どうせ、踏んだり、蹴ったりされるものではありましたけれども、すこしは、自分の身になって考えてみてくれてもいいと思ったのであります。

しかし、ボールが思うようなことは、子供らに考えられるはずがありませんでした。彼らは、きゃっ、きゃっといって、思うぞんぶんにまりを踏んだり、蹴ったりして遊んでいました。まりは、石塊の上をころげたり、土の上を走ったりしました。そして、体じゅうに無数の傷ができていました。

どうかして、子供らの手から、のがれたいものだと思いましたけれども、それは、かなわない望みでありました。夜になると、体じゅうが痛んで、どうすることもできませんでした。まれに雨の降る日だけは、楽々とされたものの、そのかわり、すこし雨が晴れると、水たまりの中へ投げ込まれたり、また、体じゅうを泥で汚されてしまうのでした。雨の日が長くつづけば、つづくほど、その後では、いっそうみんなから、手ひどく取り扱われなければならないので、まりにとっては、雨の降る日さえが、その後のことを考えると、あまりうれしいものではなかったのです。

あるとき、フットボールは、みんなから、残酷なめにあわされるので、ほとんどいたたまらなくなりました。そして、いつも、いつも、こんなひどいめにあわされるなら、革が破れて、はやく、役にたたなくなってしまいたいとまで思いました。

こんなことを思っていましたとき、彼は、力まかせに蹴飛ばされました。そして、やぶの中へ飛び込んでしまいました。まりは、しげった木枝の蔭に隠れてしまったのです。

「まりが見つからないよ。

「どこへいったろう?

子供たちは、おおぜいでやぶの中へはいってきて、まりを探しました。しかし、だれも、ボールがちょっとした、木枝の蔭に隠れていようとは、気づかなかったのであります。

0:0014%