おおかみと人·Ogawa Mimei

おおかみと人

おおかみとひと

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1976· 青空文庫 ↗

未開な小さな村がありました。町へいくには、山のすそ野を通らなければなりませんでした。その間はかなり遠く三里もありまして、その間には、一軒の人家すらなかったのであります。

春から夏にかけては、まことに景色がようございましたけれども、秋の末から冬にかけては、まったくさびしゅうございました。けれど、その村の人は、町までいくには、どうしてもその高原を通らなければならなかったのです。

この辺には、おおかみがときどき出て、人間を食ったことがあります。また、きつねが出て、人をばかしたこともあります。冬になって雪が降ると、人々は、一人でこの路を通ることをおそれました。

村に猟人のおじいさんが住んでいました。このおじいさんは、長年猟人をしていまして、鉄砲を打つことの大名人でありました。どんな飛んでいる鳥も、走っているうさぎも、またくまや、おおかみのような猛獣も、たいてい的をつけたものは、そらさず一発で打ち止めるというほど上手でありました。

このおじいさんが日ごろいっていますのには、

「くまや、おおかみのような猛獣は、かえってやさしい情けがあるもんだ。昔から人間が谷に落ちてくまに助けられたり、また路に迷って、おおかみにつれてきてもらったりした話があるが、それはほんとうのことだ。」といっていました。

しかし、どのくまも、おおかみも、人間に害をしないというのではありません。そんな人を助けるというようなことは、じつにまれな話であります。山や、野や、谷に食べるものがなくなってしまうと、人間の村里を襲ってきます。そして、人間を食べたり、家畜を取ったりします。

0:0014%