あるところに、母と少年とがさびしく暮らしていました。
あわれな母は、貧しかったから、その身になんの飾りというものをつけていなかったけれど、頭の髪に、青い珠のついているかんざしをさしていました。少年は、そのお母さんのかんざしを見ることが大好きでした。なぜなら、自分の顔が、小さく、どんよりと深い水のように、うるんだ珠の上にうつったばかりでなく、ときに、おばあさんの顔も、またあちらの遠い景色も、うつって見えるような気がしたからです。
この、昔からあったかんざしは、死んだおばあさんが、お母さんに遺していった、形見でありました。だから、お母さんが、それを大事にしていたのに、無理はありません。
ある日、行商人が、村へはいってきました。黒いふろしきに、箱を包んだのをせおっていました。箱の中には、女のほしそうな、指輪や、かんざしや、いろいろのものがはいっていました。
男は母親のかんざしに目をつけて、
「いいかんざしをおさしですね。」といいました。
母親は、恥ずかしそうに、うつむいて、
「昔ふうで、こんなもの、いいものでありません。」と、答えました。
「私に、売ってくださらないですか?」と、男はいいました。
「おばあさんの形見ですから、まあ、持っていましょう。