かえるというものは、みんなおとなしいものですけれど、この大きなひきがえるは、たくさんの小さなひきがえるのお母さんであっただけに、いちばんおとなしいのでありました。
町の裏は、坂になって、細い道がつづいていました。道の両側はやぶになっていましたので、そこに、かえるはすんでいたのであります。去年のちょうどいまごろにも、このお母さんのかえるは、坂の通りへ出て、小さな子供たちのぴょんぴょんおもしろそうに飛ぶのをながめていました。
往来を歩く人は、みんなこのかえるを見てゆきました。
「かわいらしいかえるだこと、踏まないようにしてゆきましょうね。」と、女の子たちはいって、避けて歩いてゆきました。
お母さんのかえるは、ほんとうに、人間というものはしんせつなものだと思いました。
やがて、今年もその時分になったのです。五月雨時分の坂道は、じめじめとして、やぶの草木は、青々としげりました。お母さんのかえるも去年のように、道の上へ出ていました。
ある日のこと、この大きなかえるは、人間の住んでいる家は、どんなような有り様だろうと思いました。
「ひとつ、今日は見物にいってみましょう。」といって、のこのこと坂を下りて、町へやってきたのでした。
かえるの足は、のろかったから、町へきた時分は、もう、かれこれ晩方になっていました。
「まあ、一軒、一軒、歩いてみることにしよう。」と、大きなかえるは思いました。
人間というものは、みんなやさしいものだと思っていたかえるは、なにもほかのことを考えませんでした。すぐ、その一軒の入り口からはいりました。