おさらい帳·Ogawa Mimei

おさらい帳

おさらいちょう

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

この夏のことでした。正ちゃんは毎日のようにもち棒を持って、お宮のけいだいへ、せみとりに出かけました。そのけいだいは、木立がたくさんあって、すずしい風が吹いていました。そして、雨のふる音のように、ジイジイせみがないていました。また、あぶらぜみがなき、午後からはひぐらしがないたのでありました。正ちゃんは日にやけた黒い顔をして、ごはんを食べるのも忘れて、あそびにむちゅうの日が多かったのです。

だから、晩がたは疲れてお家へかえり、お湯にはいると、すぐにいねむりをしてしまいました。

「そう毎日あそんでばかりいていいのですか?」と、お母さんがしんぱいをしておっしゃいました。

すると、そばからお父さんが、

「いや、どこへも避暑にいかなかったのだから、休みのあいだだけじゅうぶんにあそばしてやればいい。」と、いわれたのです。

正ちゃんは、お父さんの言葉がどんなにうれしかったかしれません。自分は、どこへもいきたいとは思いませんでした。ただ、あのお宮のけいだいで、年ちゃんや吉雄さんたちと仲よくあそんでいることができれば、それがなによりもたのしいことだと思いました。

「ねえ、お父さん。きょう紙芝居のおじさんが、じてん車をほったらかして木の下で、道具屋のおじさんと将棋をさしていましたよ。」と、話しました。

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