おじいさんとくわ·Ogawa Mimei

おじいさんとくわ

おじいさんとくわ

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

だんだんと山の方へはいってゆく田舎の道ばたに、一軒の鍛冶屋がありました。その前を毎日百姓が通って、町の方へゆき、帰りには、またその家の前を通ったのであります。

「どうか、今年も豊作であってくれればいいがな。」と、話をしてゆきました。

家の内で、おじいさんは、その話し声を聞いていました。そして仕事をしながら、

「どうか、米や豆が、よく実ってくれるように。」と、鉄を打って、百姓のつかうくわなどを造っていました。

おじいさんは、できあがったくわを、店さきにならべておきました。百姓は、みんなこの店で、くわや、かまを買っていくのです。

「もう、くわの刃もへったから、新しいのを買って帰ろう。」と、一人の百姓は、店さきに並べられたくわを見ていいました。

「ああ、そうだ。私も買ってゆこう。

「うちのくわも、だいぶん古くなったから、俺も買ってゆこう。」と、またほかの百姓が、いいました。

おじいさんは、話の好きな、いい人でありました。

「このくわは、私が念をいれて、どうか今年は豊作であってくれるようにと、神さまに祈って造ったくわなんだから、なかなかしっかりできている。」と、おじいさんはいいました。

百姓は、そこにあったくわを手に取ってながめました。

0:0020%