あさましきもの·Dazai Osamu

あさましきもの

あさましきもの

太宰 治(Dazai Osamu)

intermediatefiction· 1988· 青空文庫 ↗

賭弓に、わななく/\久しうありて、はづしたる矢の、もて離れてことかたへ行きたる。

こんな話を聞いた。

たばこ屋の娘で、小さく、愛くるしいのがいた。男は、この娘のために、飲酒をやめようと決心した。娘は、男のその決意を聞き、「うれしい。」と呟いて、うつむいた。うれしそうであった。「僕の意志の強さを信じて呉れるね?」男の声も真剣であった。娘はだまって、こっくり首肯いた。信じた様子であった。

男の意志は強くなかった。その翌々日、すでに飲酒を為した。日暮れて、男は蹌踉、たばこ屋の店さきに立った。

「すみません」と小声で言って、ぴょこんと頭をさげた。真実わるい、と思っていた。娘は、笑っていた。

「こんどこそ、飲まないからね」

「なにさ」娘は、無心に笑っていた。

「かんにんして、ね」

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