娘の父親は、船乗りでしたから、いつも、留守でありました。その間、彼女は、お父さんを恋しがっていたのです。
「いまごろは、どこに、どうしておいでなさるだろうか?
こう思うと、少女の目には、はてしない青い海原がうかびました。そして、その地平線を航海している、汽船の影が見えたのであります。
「もう、いくつ眠たら、お父さんは、お帰りなさるだろう?
彼女は、毎日、恋しいお父さんの帰りをば待っていました。
娘が、こうして、家で思っているように、船に乗っている父親は、また、子供のことを思っていました。
「どんなにか、私の帰るのを待っているかしれん……。
父親は、汽船の甲板の上に立って、これから、船の着こうとする港の方をながめていました。そして、指を折って、故郷へ帰る日のことなどを考えていました。
娘には、母親がなかったのです。彼女の小さな時分に、お母さんは、なくなってしまった。彼女が、父親を慕ったのも、父親が、一倍娘をかわいがったのも、そのためでありました。
たとえ、父と子は、たがいに思っても、幾千マイルとなく隔たっていました。そして、まだ、なんの陸らしいものも目にはいりません。ただ、夏雲が、水の上に漂っているかと思うと、いつしか、それは消えてしまいました。
こうして、幾日かの航海をつづけた後で、やっと、かなたに陸が見えたのでした。船に乗っているものは、みんな喜んで、甲板に出て、その方を望み、叫び、手をたたいて、躍りました。久しぶりで、港に着いたからです。