いまでは、いい薬がたくさんにありますけれど、まだ世間が開けなかった、昔は、家伝薬などを用いて病気をなおしたものであります。
この話も、その時分のことで、雪の降る北の国にあったことでした。
おじいさんは、働いて、たくさんのお金をおばあさんに残して、先へこの世の中から去ってしまった。後に残されたおばあさんは、独りさびしく暮らしてゆかなければなりませんでした。
おじいさんとおばあさんの間には、ただ一人の子供もなかったのです。おばあさんは、おじいさんの残していってくれた、たくさんのお金がありましたから、なに不自由なく暮らしていくことができました。
しかし、おばあさんもまたしあわせな人ではありませんでした。ふと目を患って、それがだんだん悪くなって、ついに両方の目とも見えなくなってしまったのです。
おばあさんの家に、一匹の黒ねこが飼われていました。このねこは、おばあさんが病気にならない時分に、ある日のこと、犬に追われて裏の高いすぎの木に逃げてきて上がったのでした。
「あのねこを殺してしまえ。」と、村の子供たちは、犬にけしをかけて木の下にやってきました。そしてねこを目がけて石を投げつけたり、棒を持ってきて突き落とそうとしたりしたのでありました。
黒ねこは、いっしょうけんめいに、すぎの木の枝にしがみついていました。小石は、四方から飛んできて、体のまわりをうなって飛んでゆきました。それが一つ当たろうものなら、いくらねこは、しっかりしがみついていても、目がくらんで落ちずにいられませんでした。ねこはそれを思うと、ぶるぶる震えていたのです。
「もっと長いさおを持ってこいやい。」と、子供たちは叫んでいました。
このとき、おばあさんは、家の内で仕事をしていましたが、あまり犬が吠えますので、何事が起こったのであろうと裏へ出てみました。