おばあさんは、まだ、若い時分に、なにかの雑誌についている口絵で見た、軽気球の空に上がっている姿を、いつまでも忘れることができませんでした。
青い色が、ところどころに出て、雲の乱れた空を高く、その軽気球は、風船球を飛ばしたように、上がっていました。それには、人が乗っていて、下方にたむろしている敵軍のようすを偵察していたのであります。すると、これを射落そうと、敵の騎兵が軽気球を目がけて、発砲していました。その白い煙が輪を巻いているのすら、記憶に残っています。
これは、☆普仏戦争の画報でありました。いっしょに、この絵を見たおじいさんは、いいました。もとより、おじいさんも若かったのです。
「いんまに、きっと、人間が、鳥のように、空を飛ぶようになるぞ。
「それは、いつのことでしょうか?」と、おばあさんは聞きました。
「五十年や、百年は後のことであろう。そうなると、この太陽の下をかすめて、人間の頭の上を飛ぶのだよ。そして、鉄砲を打ったり、爆烈弾を落とすようになる。そうなれば、戦争は、なくなってしまうかもしれないが、なんといっても怖ろしいことだ。あまり世の中がこういう方面にばかり発達すると、神も、仏もなくなってしまう。まあ、私たちは、そんな時分まで生きていないからいいが、だれでも、分際を知らないほど、怖ろしいことはない。
「もし、そんな時代になりましたら、どんなでしょうか?
「さあ、そんなことは考えつかないが、人間は、道徳などというものをまったく忘れて、強いもの勝ちとなり、国と国の約束などというものはなくなってしまうだろう……。私は、そんな時代を見たいとは思わないよ。