お城の奥深くお姫さまは住んでいられました。そのお城はもう古い、石垣などがところどころ崩れていましたけれど、入り口には大きな厳めしい門があって、だれでも許しがなくては、入ることも、また出ることもできませんでした。
お城は、さびしいところにありました。にぎやかな町へ出るには、かなり隔たっていましたから、木の多い、人里から遠ざかったお城の中はいっそうさびしかったのであります。
お城の中には、どんなきれいな御殿があって、どんな美しい人々が住んでいるか、だれも知ったものがなかったのです。旅人は、お城の門を通り過ぎるときに、足を止めてお城のあちらを仰ぎました。けれど、そこからは、なにも見ることができませんでした。
「なんでも、きれいな御殿があるということだ。」と、一人の旅人がいいますと、
「美しいお姫さまがいられて、いい音楽の音色が、夜も昼もしているということだ。」と、また他の一人の旅人がいっていました。
こうして、旅人は、いろいろなうわさをしながら、そのお城の門の前を去ってしまったのであります。
お城の中には、美しい御殿がありました。そして御殿の一室に、美しいお姫さまが住んでいられて、毎日、歌をうたい、いい音色をたてて音楽を奏せられ、そして、窓ぎわによりかかっては、遠くの空をながめられて、物思いにふけっていられました。そのことはだれも知ることができなかったのです。