駅前の広場で、二人の女はとなりあって、その日の新聞を、ゆき来の人に売っていました。一人は、もう年をとった母親であったが、一人は、まだ若い、赤ん坊をおぶった女でありました。
朝のうちは、電車のつくたび、乗り降りするものがはげしいので、新聞もよく売れたが、正午近くなると、買うものが、あまりなかったのです。
冬の日は、広場の土を白々とてらしていました。ただ、紙くずが、風にふかれて、その上をとんでいます。二人は、なにを考えているのか、ぼんやりと、前の方をながめていました。
すぐ向こう筋に中華料理店があって、さっきから、入り口のドアが、あいたり、しまったりしていました。そして、いましがた、桃色の服をきた女と、背の高い、黒服の男が、手をとりあって、入ったように思ったのが、いつのまにか時間がたち、もう食事をすまして、二人が出てくるのを、年とった女は見たのでした。かの女は、
「うちのむすこは、まだこんな上等のところを知らないだろう。」と、思いました。
それは、母親にとって、うれしいことであり、また、かわいそうなことであるような気がしました。
ゆうべのこと、むすこは、工場からかえると、やぶれた仕事服のポケットをさぐり、金をとり出して、
「おかあさん、映画を、見にいっていらっしゃい、お正月だもの。」と、前へ差し出したのでした。
そのよごれた手を見るうち、ふと幼いころ、おまえの手はだれに似て、まるくて、かわいらしいのだろうと、よくいったことが、記憶にうかんだのです。そしてその手がいま私たちの暮らしを立てていると思うと、泣かずにいられませんでした。
「いまごろ、むすこは工場で、はたらいているだろう。」と、遠くの煙突から、白い煙の上るのを見て、かの女は思いました。