遠く、いなかから、出ていらした、おじいさんがめずらしいので、勇吉は、そのそばをはなれませんでした。おじいさんの着物には、北の国の生活が、しみこんでいるように感じられました。それは畑の枯れ草をぬくもらし、また町へつづく、さびしい道を照らした、太陽のにおいであると思うと、かぎりなくなつかしかったのです。
「こちらは、いつも、こんなにいいお天気なのか。」と、おじいさんは、聞かれました。
「はい、このごろは、毎日こんなです。」と、おかあさんが、答えました。
「あたたかなところで、くらす人は、うらやましい。
おじいさんは、庭のかなたへ、はてしなくひろがる空を見ました。風のない、おだやかな日で、空がむらさきばんでいました。
「おかあさん、さっき、金魚売りがきた。
「そうかい、戦争中は、金魚売りもこなかったね。
「故郷は、まだこんなわけにはいかない。」と、おじいさんは、なにか考えていられました。
「もうすこし、近ければ、ときどきいらっしゃれるんですが。
「こちらへくると、もう、帰りたくなくなる。」と、おじいさんは笑われました。
勇吉は、おじいさんの顔を見て、
「おじいさん、いなかと、こっちとどちらがいいの。」と、聞きました。