かたい大きな手·Ogawa Mimei

かたい大きな手

かたいおおきなて

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

遠く、いなかから、出ていらした、おじいさんがめずらしいので、勇吉は、そのそばをはなれませんでした。おじいさんの着物には、北の国の生活が、しみこんでいるように感じられました。それは畑の枯れ草をぬくもらし、また町へつづく、さびしい道を照らした、太陽のにおいであると思うと、かぎりなくなつかしかったのです。

「こちらは、いつも、こんなにいいお天気なのか。」と、おじいさんは、聞かれました。

「はい、このごろは、毎日こんなです。」と、おかあさんが、答えました。

「あたたかなところで、くらす人は、うらやましい。

おじいさんは、庭のかなたへ、はてしなくひろがる空を見ました。風のない、おだやかな日で、空がむらさきばんでいました。

「おかあさん、さっき、金魚売りがきた。

「そうかい、戦争中は、金魚売りもこなかったね。

「故郷は、まだこんなわけにはいかない。」と、おじいさんは、なにか考えていられました。

「もうすこし、近ければ、ときどきいらっしゃれるんですが。

「こちらへくると、もう、帰りたくなくなる。」と、おじいさんは笑われました。

勇吉は、おじいさんの顔を見て、

「おじいさん、いなかと、こっちとどちらがいいの。」と、聞きました。

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