からすの唄うたい·Ogawa Mimei

からすの唄うたい

からすのうたうたい

小川 未明(Ogawa Mimei)

intermediatechildren· 1977· 青空文庫 ↗

ある田舎の街道へ、どこからか毎日のように一人のおじいさんがやってきて、屋台をおろして、チャルメラを吹きならして田舎の子供たちを呼び集め、あめを売っていました。

おじいさんは、小さな町の方から倦まずに根気よくやってきたのです。空の色がコバルト色に光って、太陽がにこやかに、東のいきいきとした若葉の森にさえ微笑めば、おじいさんは、かならずやってきました。

チャルメラの音をきくと、子供は、たちまち地の下からでもわき出したように、目の前に集まってきました。おじいさんは、青や、赤や、黄色の小旗の立ててある屋台のかたわらに立って、おもしろい節で唄をうたいました。

子供らばかりでなく、この街道を通って、あちらの方へ旅をする商人などまでが、松並木の根に腰を下ろして、たばこをすったり、おじいさんからあめを買って、それを食べながら、唄をきいていました。

あたりは、穏やかで、のどかでありました。くわの刃先が、ちかり、ちかりと圃の中から見えて、ひばりはあちらの空でさえずっています。それは、もう眠くなるのでありました。

ある日のこと、おじいさんは、いつものように、屋台を街道の松の木の下におろして、チャルメラを吹きますと、いつも自分が、その笛を吹いた後でうたう唄を、すぐそばで歌ったものがあります。

おじいさんは、びっくりしました。だれが俺のまねをするのだろう?あたりを見まわしたけれど、だれも、そこにはいませんでした。おじいさんは、不思議に思って、また、チャルメラをあちらに向いて鳴らしました。

すると、また、いつもおじいさんが歌うような節で唄をうたったものがあります。おじいさんは、人のまねをするやつは、なにものだろうと、こんどは、本気になって、あたりを見まわしました。

枯れた木の枝に、一羽のからすが止まって、頭をかしげていました。おじいさんは、いま、唄をうたったのはこのからすだなと思いました。

「からすは、人まねをするというが、こいつにちがいない。」と、おじいさんは、しばらく、からすをにらんでいました。

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