クラリネットを吹く男·Ogawa Mimei

クラリネットを吹く男

クラリネットをふくおとこ

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

李さんが、この町にすんでから、もう七、八年になります。いまではすっかり町の人としたしくなって、えんりょ、へだてがなくなりました。工場へつとめ、朝出かけて晩に帰ってきます。

休みのときは、よく近所の源さんのところへあそびにいきました。この二人は、わけて仲がよかったのです。源さんは会社につとめて、ごくほがらかな性質でありましたが、李さんはそれにくらべて口数の少ない、うちきなところがありました。

二人は、顔を見ると、将棋をさしました。源さんのほうが、いくらか李さんよりは強いようでした。しかし、李さんは、音楽にも趣味をもっていて、ラジオで、歌を放送するときなど、将棋をさしながら、自分の駒がとられるのも知らず、歌のほうに気をとられていました。あるとき、朝鮮の歌が、若い女の人に歌われました。

李さんは、目に涙をためて聞いていました。

「李さん、あれはどんな歌かね。」と、源さんがきくと、李さんは、さびしく笑って、

「鳥、鳥、どこへいく、あちらの山へというような歌ですよ。」と、答えました。

「ははあ、どこの国も、子守唄は、かわらないんだね。

「そうですとも、私、子供の時分に、おばあさんが、よく歌ってくれました。

「李さんは、クラリネットが、うまいそうだが、ひとつきかせておくれよ。」と、源さんがいいました。

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