けしの圃·Ogawa Mimei

けしの圃

けしのはたけ

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1976· 青空文庫 ↗

旅から旅へ渡って歩く、父と子の乞食がありました。父親は黙りがちに先に立って歩きます。後から十になった小太郎はついていきました。

彼らは、いろいろの村を通りました。水車小屋があって、そこに、ギイコトン、ギイコトンといって、米をついているところもありました。また、青葉の間から旗が見えて、太鼓の音などが聞こえて春祭りのある村もありました。またあるところでは、同じ街道を曲馬師の一隊が、ぞろぞろと馬に荷物をつけて、女や男がおもしろそうな話をしながらいくのにも出あいました。そうかと思うと、さびしい細路を、二人は町の方へ急いでいることもありました。いまにも、降ってきそうな、灰色に曇った空を気にしながら、父親が大またに歩むのを、小太郎は小さな足で追いかけたのです。けれど小太郎は、こんなときにでも、圃の中に立っている梅の木の葉の間から、青い、青い梅がのぞいているのを見逃しませんでした。そして、そんな景色を見ると、なんということなく、悲しくなって、自分には、面影すら覚えのないお母さんのことなどが思い出されて涙が出るほどでありました。

「お父さん、私のお母さんは?」と、小太郎は父に聞きますと、

「おまえには、母親なんかないのだ。」と、父親は答えました。

「そんなら、私のお母さんは、死んでしまったの?

「うるさいってことよ。ああ、そうだ。死んだんだよ。」と、父親はどなりました。

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