さか立ち小僧さん·Ogawa Mimei

さか立ち小僧さん

さかだちこぞうさん

小川 未明(Ogawa Mimei)

intermediatechildren· 1977· 青空文庫 ↗

こい紫の、ちょうどなす色をした海の上を、赤い帯をたらし、髪の毛をふりみだしながら、気のくるった女が駈けていくような、夏の雲を、こちらへきてからは、見られなくなったけれど、そのかわり、もっとやさしい女神が、もも色の長いたもとをうちふり、うちふり、子どもたちといっしょに鬼ごっこをしているような、なごやかな夕雲の姿を、このごろ毎日のごとく、街の上の空に、ながめるのであります。

こんど、煉炭屋へやとわれてきた少年の秀吉は、仕事がすむと、工場裏の空き地で、近所の子どもたちといっしょにすごす時分、こうして、ひとり空をながめながら、いろいろ空想にふけるのでした。

「小僧さん、さか立ちしてごらんよ。」と、子どもの一人が、彼のそばへよると、ふいにいいました。なぜなら、彼が、ここへきてから、さか立ちのうまいということが、じき子どもたちの間で評判になったからです。それというのも、秀吉が、故郷にいる時分から、さか立ちだけは、だれにも負けまいとけいこをしたからでした。で、いつでも、きげんのいいときには、こういわれれば、

」と、かけ声をして、うしろへ二、三歩さがり、前へのめるかと思うと、たくみにさか立ちをして、さながら、足で立つように平気で、あちらこちらと、歩きまわりながら、見ているものに、話しかけるのでした。

「ああ、きれいだな。あの高いえんとつの煙が、雲の中へ流れこんでいる。それが、おししの毛のように金色に光って見える。君たちにはそう見えない?」と、さか立ちしながら、秀吉は、いいました。

「金色になんか、見えないよ。

「正ちゃんも健ちゃんも、さか立ちしてごらんよ。

こんなに長い間、さか立ちをしていたら、さぞ頭が重くなって、目がまわるだろうと、かえって、はたで見ているものが、心配するのでした。

「もう小僧さん、いいからおやめよ。そんなに長くさか立ちしていて、なんともないの。」と、さっき、さか立ちをすすめた子どもが、やっきになっていいました。

やっと、秀吉は立ちなおると、両手についた土をはらいおとして、

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