日にまし、あたたかになって、いままで、霜柱が白く、堅く結んでいた、庭の黒土が柔らかにほぐれて、下から、いろいろの草が芽を出してきました。
「お父さん、すずらんの芽が、だんだん伸びてきましたよ。」と、庭に出て、遊んでいた少年が、奥の方に向かっていいました。
へやで、お父さんは、本を読んでいられた。
「兄さん、どこに、すずらんが芽を出したか、僕に見せておくれよ。」と、弟がそこへ飛んできました。
春の風は、青々と晴れた空を渡っていました。そして木々の小枝は、風に吹かれて、なにか楽しそうに小唄をうたっていたのです。つい、このあいだまで、ねずみ色に低く漂っていた冬の雲は、どこへか消えてしまって、そしてその下に、だまってふるえていた木立の姿は、思い出しても夢のような気がします。
「すずらんが、芽を出したかな。」と、お父さんは、日の照らす、庭の方を見ながら、書物から目をはなしました。
みんなは、田舎から、こちらへ持ってきた、すずらんが新しく、芽を出して咲くことが、どんなにうれしかったかしれません。なぜならこちらでは、すずらんは珍しい草であったからです。
「お父さん、しゃくやくも、紅い芽を出しましたよ。また今年も、きれいな花を咲くでしょうね。ああ、☆げんぶきも芽を出しましたよ。
兄と弟は、しきりに庭さきを飛びまわって、うれしそうに叫んでいました。お父さんも、いつか庭へ出て、みんなと、春のめぐってきたのを喜んでいたのでした。
それらの草の芽は、しだいに太く、伸びていきました。その間に、木々のこずえは、花のしたくをして、土の上と木の枝と、どちらが、早く花を咲くか、さながら上と下とで競争しているごとくに思われました。