すももの花の国から·Ogawa Mimei

すももの花の国から

すもものはなのくにから

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

人々のあまり知らないところであります。そこには、ほとんど、かずかぎりのないほどの、すももの木がうわっていました。そして、春になると、それらのすももの木には、みんな白い花が、雪のふったように咲いたのであります。

その木の下をとおると、いい匂いがして、空の色が見えないまでに、白い花のトンネルとなってしまいました。それは、あまりに白くて、清らかなので、肌が、ひやひやするようにおもわれたのであります。

しかし、ゆけども、ゆけども、白い花のトンネルはつきませんでした。まるで、白い雪の世界をあるいているようなものでした。けれど、雪ではありません。雪は、真っ白でありますが、すももの花は、いくぶん、青みがかっていて、それに、いい匂いがしました。

しまいには、どこが出口やら、また、入って、あるいてきたところやら、わからなくなってしまいました。すると、そのすももの林のなかに、一軒のわら屋がありました。その家には、しらがのおばあさんと、三人の姉弟がありました。いちばん上の姉は、十四で、つぎの妹は、十二で、下の弟は、八つばかりでありました。

この三人は、ほかにお友だちもなかったから、姉弟で、なかよくあそんでいました。

「お父さんや、お母さんは、いつになったらかえっていらっしゃるだろう?」と、妹と弟は上の姉さんにむかってたずねたのです。すると、姉さんは、やさしい目をして二人を見ながら、

「私だって、かすかに、お母さんのかおや、お父さんの顔をおぼえているばかりなのよ。春の晩方のこと、こうして、すももの花の咲いたじぶんに、みんながランプの下で、たのしく、お話をしたことだけをおぼえているのよ。」と、姉さんはこたえました。

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