だれにも話さなかったこと·Ogawa Mimei

だれにも話さなかったこと

だれにもはなさなかったこと

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

あのときの、女の先生は、まだいらっしゃるだろうか。それにつけ、僕は、深く心にのこって、忘れられない当時の思い出があります。

しばらく、さくの外に立って、もう一度そのときのことを頭にえがき、自分の子供の時分をかえりみました。

どちらかといえば、僕は、内弁慶で、外では弱虫というのでしょう。幼稚園へも、なかなか一人ではいけなかったのでした。

「姉さん、ついていってよ、それでなけりゃ、いや。」と、いざ朝になって、いくときになると、いいはりました。

「じゃ、こんどだけ、いっしょにいってあげましょうね。」と、姉は、ついていってくれました。

家を出ると、さびしいけれど町になります。お菓子屋や、くだもの屋や、酒屋や、薬屋などがあって、角のところにある、ラジオ屋の前をまがると、細い道となります。

その道をいくと、じき、幼稚園のところへ出るのでした。

門の前までくると、立ちどまって、

「さあ、お入りなさい。姉ちゃんは、もう帰っていいでしょう。」と、姉は、いいました。

もう、校舎の入り口には、きのう、いっしょに遊んだ、子供たちが二、三人もかたまって、僕のほうを見て、なにか話しあって、笑っています。きっと、弱虫とでもいっていたのでしょう。そう知りつつも、僕は勇気を出して、一人で入ることができなかった。それどころか、ますます、悲しくなって、姉の手をひき、

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