どこかに生きながら·Ogawa Mimei

どこかに生きながら

どこかにいきながら

小川 未明(Ogawa Mimei)

intermediatechildren· 1977· 青空文庫 ↗

子ねこは、彼が生まれる前の、母ねこの生活を知ることはできなかったけれど、物心がつくと宿なしの身であって、方々を追われ、人間からいじめつづけられたのでした。母ねこは、子供をある家の破れた物置のすみへ産み落としました。ここで幾日か過ごすうちに、子ねこは、やっと目が見えるようになりました。そして、母親の帰りがおそいと、空き箱の中から、明るみのある方を向いて、しきりとなくのでした。もし母ねこが、その声をききつけようものなら、急いで走ってきました。そして、箱へ飛び込むや否や、子供に乳房をふくませたのであります。

しかし、ここも安住の場所でなかったのは、とつぜん物置へきた主人が見つけて、大いに怒り、

「いつ、こんなところへ、巣を造ったか。さあ、早く出てうせろ!」と、ほうきで、たたき出そうと、追いたてたからでした。あわれな母ねこは、あわてながら、かわいい子供をくわえて、逃げ出すより途がなかったのです。空き地をぬけ、林のある方へと、いきました。

そこには、小さな祠があって、その縁の下なら、安全と思ったのでしょう。けれどそこは湿気にみち、いたるところ、くもの巣が、かかっていました。それだけでなく、野良犬の隠れ場所でもあるのを気づくと、また、そこを一刻も早く去るのをちゅうちょしませんでした。母ねこは、べつに心当たりもなかったから、子供を口にぶらさげたままふたたび町の方へ引っ返したのです。

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