自転車屋の店に、古自転車が、幾台も並べられてありました。タイヤは汚れて、車輪がさびていました。一つ、一つに値段がついていました。わりあいに安かったのは、もうこの先長くは、使用されないからでしょう。
原っぱで遊んでいた、辰一は、なにを思い出したか、駆け出して、自転車屋の前へきました。そして、並んでいる古い車の中の、一つにじっと目をとめていました。
「ああ、まだある。どうか、この月の末まで売れないでいてくれ。」と、心で、いったのであります。
彼は、やっと安心して、原っぱへ引き返してきました。友だちと鬼ごっこをしたり、ボールを投げたりして、しばらく遊んだのです。しかし、いつまでも遊んでいることはできなかった。夕刊を配達しなければならぬからです。
その自転車には、染め物屋の徳蔵さんが乗っていたのでした。
「あいているときは、使いな。」と、やさしい徳蔵さんは、よく辰一にいいました。辰一は、借りて、この原っぱを走りまわったことがあります。また、遠くまで乗って遊びにいったこともありました。あるときは、学校から帰って、ぼんやり往来に立っていると、うしろでふいにチリン、チリンという音がするので、驚いて振り向くと、徳蔵さんが、自転車に乗って止まっていました。
「うしろへ乗らないか。