遠い、あちらの町の中に、宝石店がありました。
ある日のこと、みすぼらしいふうをした娘がきて、
「これを、どうぞ買っていただきたいのですが。
といって、小さな紙包みの中から、赤い魚の目のように、美しく光る石のはいった指輪を出してみせました。
ちょうど、主人の留守で、トム吉が手にとってながめますと、これほど、性のいいルビーは、めったに見たことがないと思いましたから、しばらく感心して、掌にのせてながめていました。
娘は、小僧さんが、なんというだろうかと、さも心配そうな顔つきをしていました。
(もし、これが、いい値に売れなかったら、病気の弟をどうしたらいいだろう。そればかりでない、明日から私たちは食べてゆくことができないのだ。
と、いろいろ思っていたのです。
「この指輪を、どこでお求めでございましたか。」と、トム吉は、たずねました。
すると、娘は、正直にその指輪について話したのです。
「それは、死なれたお母さんが、お祖母さんからもらって、大事になさっていたのを、お亡くなりなされる時分、指からぬいて、これはいい指輪だから、よほどのときでなければ、はなしてはいけないとおっしゃって、私にくださったものです……。
と、娘は、いまの不自由をしていることまで、物語りました。
トム吉は、だまって、娘さんのいうことをきいていましたが、
「じゃ、弟さんがご病気で、この大事になさっている指輪をお売りなさるというのですか。
と、たずねました。
娘は、かなしそうに、目にいっぱい涙を浮かべながら、うなずきました。
「いや、まことにけっこうな石です。
といって、トム吉は、真物の相場どおりに高値で買ったのでした。