なまずとあざみの話·Ogawa Mimei

なまずとあざみの話

なまずとあざみのはなし

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

春の川は、ゆるやかに流れていました。その面に、日の光はあたって、深く、なみなみとあふれるばかりの、水の世界が、うす青くすきとおって見えるように思われました。

この不思議な殿堂の内には、いろいろの魚たちが、おもしろおかしく、ちょうど人間が地の上で生活するときのように、棲息していたのであります。なかでも、小さな子供たちは、毎日群れをなして、水面へ浮かび、太陽の照らす真下を、縦横に、思いのままに、金色のさざなみを立てて泳いでいました。そして晩方、岸の暗いすみの巣のあるところへ帰ってくると、自分の親たちや、またほかの魚たちに、見てきたいろいろのことを物語ったのでした。

「大きな船がいったぞ。そのときは、おれたちは、波の中へ巻きこまれようとした。やっと急いでほどへだたった、安全な場所へ避けることができた。船の上では、ほおかむりをした男が、たばこをすっていた。

「あちらの岸の方には、人間が、いくたりも長いさおをもっていったりきたりしていた。お父さんや、お母さんたちも、気をつけんければならん……。

あかあかと水の上をいろどって、夕日は沈みました。水の中は、いっそう、暗く、うるわしいものに思われました。このとき、銀のお盆を流したように、月が照らしたのです。

「おまえたちも、あんまり方々を遊び歩かないほうがいいよ。日が暮れると、やっと安心するのだ。私たちは、今日も無事に幸福に、送ることができたと思うのだよ。」と、魚の親たちは子供たちを見まわしながらいいました。

「お父さんも、お母さんもお休みなさい。」と、子供たちはいった。

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