ねこ·Ogawa Mimei

ねこ

ねこ

小川 未明(Ogawa Mimei)

beginnerchildren· 1977· 青空文庫 ↗

黒ねこは、家の人たちが、遠方へ引っ越していくときに、捨てていってしまったので、その日から寝るところもなければ、また、朝晩食べ物をもらうこともできませんでした。しかたなく、昼間はあちらのごみ箱をあさり、こちらのお勝手口をのぞき、夜になると、知らぬ家のひさしの下や、物置小舎のようなところにうずくまって、眠ったのであります。

こうなると、いままでかわいがってくれた人々までが、

「そら、どらねこがきた。」といって、顔を出すと水をかけたり、いたずらっ子は、そばを通ると、小石を拾って投げたりしました。もとは、きれいな毛色であったのが、このごろは、どこへでも入るので汚れて、まことにみすぼらしい姿となってしまいました。

それに、黒ねこは、おいていかれたときには、もうお腹に子供があったのです。きっと、情けを知らぬ主人は、「子供を産むとやっかいだから、捨てていこうよ。」といって、後に残したのでありましょう。

かわいそうなねこは、どこで、自分の子供たちを産んだらいいかと迷いました。そして、毎日、方々を見て歩きましたが、ここなら安全と思うようなところはなかなか見つかりませんでした。人間にも油断ができなければ、犬や、また、ほかのねこたちにも、けっして心を許せなかったからです。

こうして、ほどなく母ねこになろうとする黒ねこは、自分の食べ物を探すことよりも、かわいい子供を産む安全な場所を見いだすことにいっしょうけんめいでありました。

とうとう、人家からはなれた森の中に、よさそうなところを見つけました。そして、そこへ子供を産む用意をいたしました。やがて、三びきのかわいらしい、黒と白のぶちねこが産まれました。それからというもの、母ねこの心配は、いままでのようなものではなかったのです。自分たちの隠れ場所に、雨や、風が、吹き込んでも子ねこには当てないようにして、子ねこは、いつもあたたかな母ねこのお腹の下で、安らかに眠っていました。

日数がたつと、三びきの子ねこは、母ねこのお腹の下からはい出して、こおろぎや、かえるなどを追いかけたのであります。

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