ねずみとバケツの話·Ogawa Mimei

ねずみとバケツの話

ねずみとバケツのはなし

小川 未明(Ogawa Mimei)

intermediatechildren· 1977· 青空文庫 ↗

町裏を小さな川が流れていました。川というよりは、溝といったほうがあたっているかもしれません。家々で流した水が集まって、一筋の流れをなしているのでありました。

ねずみは、その流れの岸に穴を掘って、もう長い間、そのところにすんでいました。ほかのねずみたちが、みんな家々の天じょう裏や、縁の下などに巣を造っているのに、このねずみばかりは、こうして、外のこんなむさくるしいところに、どうしてすんでいるのだろうという疑いをもたれたのですが、それには子細のあることでした。

この川の淵には、いたるところにごみためがあって、いろいろなものが捨てられるからではありませんでした。ねずみの食べられそうなものは、犬やからすが先にきて、たいていそれを食べてしまうのでありましょう。

ねずみがここにすんだのは、この場所が安全だと思ったのにほかなりませんでした。

それは、ねずみがもっと小さかった時分のことであります。彼は、ほかの友だちといっしょに、やはり、町の一軒の家にすんでいました。ある夜のことでありました。彼は、みんなから離れて、ひとり台所へ出てきました。たなの上には、大根や、芋などがざるの中にいれて、のせてありました。また、戸だなの中には、煮た魚や、豆などがはいっていました。すべてが、敏感なねずみの鼻でわかったのであります。

「人間は、りこうでずるいから、気をつけなければならない。」と、日ごろから聞いていましたから、ねずみは注意を怠りませんでした。

彼は、音をたてないように、戸だなをかじってみようかと思ったが、それよりは、まず無難の、たなの上にのっている芋を食べようと思いました。

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