都会から、あまり遠く離れていないところに、一本の高い木が立っていました。
ある夏の日の暮れ方のこと、その木は、恐ろしさのために、ぶるぶると身ぶるいをしていました。木は、遠くの空で、雷の鳴る音をきいたからです。
小さな時分から、木は、雷の怖ろしいのをよく知っていました。風をよけて、自分をかばってくれた、あのやさしいおじさんの大木も、ある年の夏の晩方のこと、目もくらむばかりの、電といっしょに落ちた、雷のために、根もとのところまで裂かれてしまったのでした。そればかりでない、この広い野原のそこここに、どれほど多くの木が、雷のために、打たれて枯れてしまったことでしょう。
「あまり、大きく、高くならないうちが、安心だ。」といわれていましたのを、木は、思い出ました。
しかし、いま、この木は、いつしか、高く大きくなっていたのでした。それをどうすることもできませんでした。
木は、それがために、雷をおそれていました。そして、いま、遠方で鳴る雷の音をきくと、身ぶるいせずにはいられませんでした。
このとき、どこからともなく、湿っぽい風に送られてきたように、一羽のたかが飛んできて、木のいただきに止まりました。
「私は、山の方から駆けてきた。どうか、すこし、翼を休めさしておくれ。」と、たかはいいました。
しかし、木は、身ぶるいしていて、よくそれに答えることができませんでした。
「そ、そんなことは、お安いご用です。た、ただ、あなたの身に、障りがなければいいがと思っています。」と、やっと、木は、それだけのことをいうことができました。