うた時計·Niimi Nankichi

うた時計

うたどけい

新美 南吉(Niimi Nankichi)

beginnerchildren· 1968· 青空文庫 ↗

二月のある日、野中のさびしい道を、十二、三の少年と、皮のかばんをかかえた三十四、五の男の人とが、同じ方へ歩いていった。

風がすこしもないあたたかい日で、もう霜がとけて道はぬれていた。

かれ草にかげをおとして遊んでいるからすが、ふたりのすがたにおどろいて、土手をむこうにこえるとき、黒い背中が、きらりと日の光を反射するのであった。

「坊、ひとりでどこへいくんだ」

男の人が少年に話しかけた。

少年はポケットにつっこんでいた手を、そのまま二、三ど、前後にゆすり、人なつこいえみをうかべた。

これはへんにはずかしがったり、いやに人をおそれたりしない、すなおな子どもだなと、男の人は思ったようだった。

そこでふたりは、話しはじめた。

「坊、なんて名だ」

「れんていうんだ」

れん平か」

と、少年は首を横にふった。

「じゃ、れん一か」

「そうじゃないよ、おじさん。ただね、れんていうのさ」

どういう字書くんだ。連絡の連か」

点をうって、一を書いて、ノを書いて、ふたつ点をうって……」

「むずかしいな。おじさんは、あまりむずかしい字は知らんよ」

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