おれは二十面相だ·Edogawa Ranpo

おれは二十面相だ

おれはにじゅうめんそうだ

江戸川 乱歩(Edogawa Ranpo)

intermediatechildren· 1988· 青空文庫 ↗

消えうせた大学生

五月のある日のこと、麹町の高級アパートにある明智探偵の事務所へ、ひとりの老紳士が、たずねてきました。

ふさふさとした白いかみを、オールバックにして、白い口ひげをはやした、やせがたで、背のたかい、りっぱな老紳士です。

この人は松波文学博士で、あるお金持ちがたてた古代研究所の所長なのですが、西洋の古代のことをしらべている、有名な学者でした。

明智探偵は、ある会で松波博士とあったことがあるので、知りあいのあいだがらでしたが、その有名な老学者が、とつぜんたずねてきたのです。

とりつぎに出た小林少年は、松波博士と聞いて、ていねいに、応接室にあんないしました。

「明智さん、わたしのつとめている古代研究所に、みょうなことがおこりましてね。きょうは、あなたのお知恵をかりようとおもって、うかがったのです。

松波博士はいすにかけると、すぐにそう口をきりました。

「みょうなことと言いますと?

明智がたずねますと、博士は話しはじめました。

「古代研究所は、ついこのごろ、世界にたった一つという、古代エジプトの経文を書いた巻き物を手に入れたのです。わたしたちの研究所の木下博士が、イギリスで見つけて買って帰ったもので、そのことは新聞にも出ましたから、ごぞんじかもしれませんが、お金にかえられない、世界の宝物です。

ところが、この巻き物には、おそろしい、いいつたえがあるのです。それのおいてある部屋には、なにかしら、ふしぎなことがおこるというのです。イギリスでも、いろいろ気味のわるいことがおこったらしいのですね。それで、この巻き物の持ち主がこわくなって、売る気になったのです。

木下さんは、この宝物を、日本のお金にして、たった三十万円ほどでゆずりうけてきたのですが、ほんとうは、その何倍、何十倍の値打ちのものです。

さて、この巻き物を、研究所のエジプトの部屋へおさめたのですが、すると、たちまちおそろしいことがおこりました。

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