サーカスの怪人·Edogawa Ranpo

サーカスの怪人

サーカスのかいじん

江戸川 乱歩(Edogawa Ranpo)

advancedchildren· 1988· 青空文庫 ↗

ある夕がた、少年探偵団の名コンビ井上一郎君とノロちゃんとが、世田谷区のさびしいやしきまちを歩いていました。きょうは井上君のほうが、ノロちゃんのおうちへ遊びにいったので、ノロちゃんが井上君を送っていくところです。

ノロちゃんというのは、野呂一平君のあだなです。ノロちゃんは団員のうちでいちばん、おくびょうものですが、ちゃめで、あいきょうもので、みんなにすかれています。

井上一郎君は、団員のうちで、いちばんからだが大きく、力も強いのです。そのうえ、おとうさんが、もと拳闘選手だったので、ときどき拳闘をおしえてもらうことがあり、学校でも、井上君にかなうものは、ひとりもありません。その大きくて強い井上君と、小さくて弱いノロちゃんが、こんなに仲がよいのはふしぎなほどでした。

ふたりは、両側に長いコンクリートべいのつづいた、さびしい町を歩いていますと、ずっとむこうの町かどから、ひとりの紳士があらわれ、こちらへ歩いてきました。ねずみ色のオーバーに、ねずみ色のソフトをかぶり、ステッキをついて、とことこと歩いてくるのです。

二少年は、その人のすがたを、遠くから、ひと目みたときに、なぜかゾーッと身がちぢむような気がしました。むこうのほうから、つめたい風が吹いてくるような感じで、からだが寒くなってきたのです。

しかし、夕ぐれのことですから、その人の顔は、まだ、はっきり見えません。ふたりは、そのまま歩いていきました。紳士と二少年のあいだは、だんだん近づいてきます。そして、十メートルほど近よったとき、やっと、紳士の恐ろしい顔が見えたのです。

ノロちゃんが、「アッ!」と、小さい叫び声をたてました。井上君は、それをとめようとして、グッと、ノロちゃんの腕をつかみました。

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